世界フェアトレード・デーに名古屋で開催される恒例のイベントに、去年に引き続き行ってきました。様々な想いでコーヒーの仕事に携わる人たちが集まるこのイベントで、今年も深い話を伺ってきました。
世界フェアトレード・デー・なごやに行ってきた
このイベントはコーヒー飲み比べができるコーヒー・サミットをメインに、プレゼンテーションやライブを行うフェアトレード・ステージ、コーヒー以外の分野でフェアトレードな取り組みを行う団体が出店するフェアトレード・マルシェ、そして参加型のフェアトレード・ワークショップから構成されます。

コーヒーサミットに参加したのは28団体。中には馴染みのお店もありましたが、今回は敢えて「若い力」と「エシカル」に焦点を当てて訪れた8店(4枚綴りのチケット2回分)を紹介します。(はい、半日で8杯のコーヒーを飲んだコーヒー馬鹿です。)
「エシカル」については最後の「イベントを振り返って」で少し考察します。
イベント基本情報

桜花学園高等学校 × マウンテンコーヒー
この日まず訪れたのは、以前昭和区民まつりでお会いした桜花学園高校国際キャリアコースのブース。同じ昭和区にあるマウンテンコーヒーさんが仕入れたフェアトレードのコーヒー豆の中から国際キャリアコースの生徒さん達が自分で選び、その豆をドリップパックにして売っています。
扱う豆は、昨年10月に行われた昭和区民まつりの時と同じウガンダ産の豆です。

今回は桜花学園高校の授業で講師も務めるマウンテンコーヒーの方からお話を伺うことができました。
授業から、事業、そして実業へ。
早口言葉のようですが、なんと、国際キャリアコースは法人化されたそうです。近頃は学生さんの起業を耳にする機会もありますが、高校普通科の授業が事業化されるのは珍しいですね。生徒さんは株主になるそうです。高校生にして、実業家。

上の写真のパネルで説明しているように、ウガンダの水不足に対する取り組みも続いているそうです。子供たちが遠くの場所から水を運ぶために時間を費やし、道中で誘拐される危険性もあるなんて、大きな問題です。このコーヒーの売り上げは水道施設の整備にも使われるとのこと。
尚、今の(24年度の)2年生が扱うコーヒー豆と、産地の課題の研究は始まっているそうです。いつかその話も聞かせていただきたいです。

私が高校生の時は、ただ勉強が嫌いなだけの生徒でした。だからいい歳になった今、社会貢献に繋がる活動を事業化する生徒さん達を応援したくなります。これからの活動も楽しみにしています!
基本情報:桜花学園高等学校
名古屋市昭和区緑町1-7
(桜花学園高等学校)
ohka-hs.com/course/international
(国際キャリアコース)
基本情報:マウンテンコーヒー株式会社
合わせて見たい:桜花学園 国際キャリアコース @ 昭和区民まつり
前述のように桜花学園国際キャリアコースのカフェブースは昭和区民まつりで訪れていて、その時の様子も紹介しています。
齊藤コーヒー × 南陽高校 Nanyo Company部
続いて訪れたのは、マウンテンコーヒーさんと同業者仲間でもある齊藤コーヒーさんのブース。こちらは南陽高校の部活動「Nanyo Company部」とコラボしています。齊藤コーヒーさんはフェアトレードコーヒーの普及に力を入れていて、前回もお話を聞かせていただいています。
今回提供するのは、メキシコをメインに、ニカラグアとベトナムの豆も使ったブレンド。どれもフェアトレードに認証を得た、「フェアトレード100%」のブレンドです。

今回Nanyo Company部がプロデュースするのはドリップパックと、林檎とアールグレイのスコーンです。生徒さん達が考え、製造会社とも相談しながら作ったそうです。「コーヒーに合いますよ」と生徒さんに勧められるまま、フェアトレード100%ブレンドと一緒にいただきました。
りんごと、アールグレイの香りが、しっかり届きます。スコーンのような、どこかパウンドケーキのような、不思議な食感ですね。

Nanyo Company部は部活動なので、100%自主的な活動です。さらに今回は、制服姿の正式な部員の他にも多数の生徒さんがボランティアでお手伝いに来ていました。好きだからできることって、いいですよね。今だからできることを色々経験してください。
基本情報:齊藤コーヒー株式会社
名古屋市西区中小田井3-86
齊藤コーヒーさんはカフェや小売店にコーヒー豆を卸しています。
基本情報:愛知県立南陽高等学校
名古屋市港区大西2-99
学生団体フェアトレードドリップパックプロジェクト
高校生の活動を見た後に、大学生の団体も訪ねました。前回もお話を伺った、学生団体フェアトレードドリップパックプロジェクト、通称「ドリプロ」。所属する大学や専攻の垣根を越えて、同じ志の下に集まった学生さんたちです。

いただいたのはカティモール・ハニー。まず香りがフルーティーで、口に含むとなんとも優しい味わいです。豆の良さはもちろん、丁寧に淹れられたコーヒーはやっぱり美味しいですね。
ドリプロの活動のひとつは、学生さんが実際にコーヒー農家を訪れること。今回のブースでもその時の様子が紹介されていました。

大阪のCAFETALESさんを訪れた時もそうでしたが、生産者の顔を見ると、1杯のコーヒーが出来上がるまでのストーリーを考えることができます。かつて日本ではご飯を食べるときに「お百姓さんに感謝して」という言葉が使われることもありましたが(今でももちろん感謝していますよ)、嗜好品のコーヒーを飲むときも同じです。
普段は離れた場所でそれぞれの学生生活を送りつつ、互いにコミュニケーションをとりながらドリプロの活動をしている学生さん達。ECの運営もそのように行っているそうです。今後の活動も楽しみです。
基本情報:ドリプロ
椙山女学園大学村上研究室 × Taiwan Linzard Coffee
続いて、椙山女学園大学村上研究室の学生さんのブース。台湾のコーヒー豆を扱っています。
台湾はコーヒー生産地域が集まる赤道付近の「コーヒーベルト」にギリギリ入っていますが、そこで生産されるコーヒー豆はまだ日本ではあまり流通していません。

いただいたコーヒーは浅煎りで、フルーティーな香りがします。お茶の文化が発展した台湾ではこんなコーヒーが好まれるのかな、と勝手に想像してしまいました。

村上研究室の学生さんの専攻は建築だそうです。建築とコーヒーは関りがなさそうですが、建築の仕事は壁や柱を設計するだけじゃない、と考えれば、持続可能な農業開発は無関係ではないでしょう。
基本情報:椙山女学園大学
[星が丘キャンパス]
名古屋市千種区星が丘元町17-3
基本情報:Taiwan Linzard Coffee 台灣林品(蜥蜴)咖啡
フェアトレード珈琲院
お次は、そのままの名前のお店。地下鉄庄内通駅からすぐ近くにあるカフェです。
直営のカフェもあるマウンテンコーヒーさんを除き、本業が実店舗のカフェというお店は今回紹介する参加者の中では初です。このことはコーヒービジネスの多様性も示しているでしょう。

マスターは元々、先ほど紹介した齊藤コーヒーの人で、お店で使うコーヒー豆は齊藤コーヒーさんから仕入れているそうです。なるほど、フェアトレードが前面に出るわけですね。ちなみに齊藤コーヒーさんのブースは2つ隣でした。
フェアトレードと、もう一つ気になったのはカリタの3つ穴。最近はカフェで見かけることも少なくなりました。

聞けば、カリタの方とも交流があるとのこと。カリタの3つ穴ファンとして、個人的に羨ましいです。
お店は今の自宅から遠くないので、機会があれば伺いたいです。その時はもっとフェアトレードコーヒーについて聞かせてください。
基本情報:フェアトレード珈琲院
喫茶ニューポピー
続いて実店舗からの出店です。円頓寺商店街の喫茶ニューポピーさん。名古屋のコーヒー界では少し知られたお店です。
まずはコーヒーをいただきましょう。選べるのは東ティモールとコロンビア。東ティモールはマンデリンで有名なインドネシアから独立した国です。当然コーヒーは栽培されていますが、まだ日本での流通は多くないようです。と、ここまで説明しておきながら選んだのはコロンビアのゴールドハニー。

そのお味は、果汁入りですか?というようなフルーティー感で、甘味もあります。浅煎りの良さが出ていますね。
冒頭の写真を見ていただければ分かるように、かなりの来場者数ですので、このイベントでは効率重視で作り置きのコーヒーを出すブースも少なくありません。でも丁寧に淹れたコーヒーは、その良さがよく分かります。
このお店のエシカルな面もお話しておきましょう。産地から仕入れたコーヒー豆には「欠点豆」も含まれるため、これを手作業で取り除く必要があります。ここではその作業を障がい者が行っていて、障がい者の就業支援にも一役買っています。

フェアトレードの主眼は生産者で、それは当然ですが、産地で収穫・精製されたコーヒー豆が1杯のコーヒーになるまでには、さらに多くの人々が携わります。Tricot Coffeeを飲むと、そんなことも気付かせてくれます。

ブースにはひっきりなしにお客さんが来ていたのであまりゆっくり話はできませんでしたが、また色んな話を聞かせていただきたいです。そのためには、お店に行かなきゃですよね。
基本情報:喫茶ニューポピー
名古屋市西区那古野1-36-52
8:00~18:00(月-木、日曜)
8:00~22:00(金・土曜)
最新情報はお店のウェブサイトでご確認ください
(喫茶ニューポピー)
(Toricot Coffee)
合わせて見たい:Toricot Coffee
以前久屋大通公園の軒先で営業していたTricot Coffeeさんにお会いしたのは、まだコロナ禍でした。実はその時「今度はお店に行きます」と言って以来、まだ行けていません… 近いうちに円頓寺商店街のお店に伺いたいです。
FARMERS PASSION
実店舗からの出店をもう一つ、と紹介してもいいのですが、カフェの運営はFARMERS PASSIONさんが手掛ける事業のうちのひとつです。前回の記事でも紹介しましたように、FARMERS PASSIONさんはネパールでコーヒー農園を経営しています。
では、そのネパールのコーヒーをいただきましょう。

深煎りですが、苦味よりコクが前面に出ています。豆の個性はもちろん、ドリッパーの違いもあるのでしょうか。興味があります。
FARMERS PASSIONさんのカフェのもう一つの名物はカレーだそうです。ネパールの農園では農薬に頼らない害虫対策としてスパイスの木を植え、収穫したスパイスを調合してオリジナルのカレーを作っているそうです。

豊川のカフェはちょっと行ってくる距離ではありませんが、名古屋市内にもカフェを開いたそうですね。近いうちに伺って、カレーもいただきたいです。
基本情報:FARMERS PASSION
愛知県豊川市東豊町5-22[mol mafe(本店)]
平日 9:00~17:00
土日祝 8:00~17:00
最新情報はお店のウェブサイトでご確認ください
ヨイマメ珈琲 × TPA 地球市民の会
最後に訪れたのは焙煎所のヨイマメ珈琲さんと、協働しているTPA (Terra People Association) 、地球市民の会さんのブース。
まず気になったのは「ミャンマーに灯りを届けよう」という取り組み。ミャンマーには家計を助けるために昼間に働く子供たちがいて、勉強する意思があっても、電気が通っていない村では夜に調理のために焚いた薪の灯りで本を読む子供たちもいるそうです。

この灯りを届ける取り組み自体はコーヒーと直接関係はないのですが、コーヒー栽培による年収向上の支援も行っています。現地で支援するのはTPAさん、そこで収穫された豆を焙煎して販売するのがヨイマメ珈琲さん、ということです。

しかしその話は衝撃的でした。TPAさんが支援活動を始めたチン州では、それまでの農家の年収は2~3万円だったそうです。これ、誤記じゃありませんよ。「年収」が「2~3万円」だそうです。コーヒー栽培の技術を伝えることで収入の向上を目指しているとのことです。
ただしミャンマーの内戦は報道される機会が減っただけで今でも続いていて、自国軍の空爆を避けながらの活動だそうです。これが現実です。そんな中で行われているTPAさんの活動を、パネルの写真を使って少しだけ説明します。
1杯のコーヒーを飲むまでに、本当に色んなストーリーがあるんですね。今回のイベントは、そんなことを考える良い機会になりました。
基本情報:ヨイマメ珈琲
基本情報:TPA 地球市民の会
佐賀県佐賀市高木町3-10
イベントを振り返って
前述のように今回のコーヒーサミットでは「若い力」と「エシカル」に焦点を当てました。
若い力とエシカルと、コーヒーと
まず、若い力。これは前回も、今回も文中で書いたことですが、私が高校生の時はとにかく勉強が嫌いでした。勉強の必要性を理解したのは大学を卒業して就職してから。その後、退職して学び直しのために大学院に行ったこともあります。そんな私だから言えるのですが、若い人たちには社会に出る前に色々経験してもらいたいです。

次に、エシカルについて。ひとつ誤解しないでいただきたいのですが、今回紹介したお店や団体のようにフェアトレード認証の製品を扱ったり、生産者を訪ねる活動をすることだけが「エシカル」ではないということです。
例えばスペシャルティコーヒーはただ「印象的で美味しい」だけではなく、トレーサビリティ、つまりコーヒー生産過程の履歴が明確であることが求められます。これは間接的にコーヒー生産者を守ることに繋がり、実際日本スペシャルティコーヒー協会の基本構想にはコーヒーの生産環境や生活レベルの向上を図ることが含まれています。そのためにフェアトレード認証である必要性はありません。

尚、今回ドリプロさんが取り上げたラオス、TPAさんが活動を始めたミャンマー、そしてwhat’s!? coffeeさんがSOCIAL TOWER MARKETで扱った豆の産地、タイの3国は、かつてアヘンの原料としてのケシの栽培がさかんに行われ「ゴールデン・トライアングル」と呼ばれた地域です。これらの地域では栽培作物をケシからコーヒーに転換することで農村の生活向上が図られることがあります。

普段嗜好品としてのコーヒーを飲む度にこのようなことを考える必要はありませんが、このコーヒーサミットは、1杯のコーヒーにまつわるストーリーを考える良い機会になります。
印象的だったのはTPAさんの言葉です。大阪のCAFETALESさんのように生産者の顔が見える珍しいカフェもある、なんて話をしていたら、逆にこのようなイベントの様子を生産者に見せると喜ばれる、とのことでした。ただ好きなことをして楽しんでいるだけなのに、それで喜ばれるなんて、嬉しいですね。
コーヒーにはそんな力もあるんです。
合わせて見たい:第13回 世界フェアトレード・デーなごや
前回、2023年に行われた第13回の様子も紹介しています。
コーヒーサミット @ 第13回 世界フェアトレード・デー・なごや
参考文献
最新版 珈琲完全バイブル
コーヒー生産地の概況や、スペシャルティコーヒーについても詳しく述べています。
コーヒーで読み解くSDGs
最近流行り言葉の「SDGs」にはすっかり「エコ」という意味が定着してしまっていますが、実際はそんな薄っぺらいものではなく、持続可能な「開発」の目標です。そこにはコーヒー農家のような農村の開発も含まれますが、エコは関係ありません。
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