カフェでコーヒーを注文する時、産地で選ぶことが多いですよね。ここはコロンビアコーヒーの専門店なのですが、それでも何を注文するか悩みます。CAFETALES(カフェ タレス)さん。コーヒー生産者に寄りそうマスターが営む温かいお店です。

大坂城(大阪城)の城下町で

城巡りが好きな人が「本町」という地名を聞けば、城下町を貫く本町通りがあった辺りね、とピンとくるでしょう。そんな本町通りから少し逸れ、地下鉄堺筋本町駅から徒歩数分の場所にCAFETALESさんはあります。

小さなお店のドアを開けると、地顔が笑顔のマスターが迎え入れてくれました。

CAFETALESの店内
カウンターに立つマスターがどのお客さんとも会話できるような距離感の街カフェ。「Cafe Colombia」の文字も目を引きます。

先客には名前で呼び合う常連さんらしき方々もいました。でも知らない人が見たら私もそんな常連の一人に見えたかもしれません、一瞬で打ち解けましたから。

さて、何を注文しましょうか。店頭の看板にもあって気になっていた「ばすくちーずけーき」をまず選び、それに何を合わせようか、という定番の会話を楽しみましたが、選択肢はすべて「コロンビア」なんですよ。それでも、悩みます。壁には「コーヒー豆の選び方」も掲げられています。

CAFETALESのメニュー、コーヒーの選び方
同じ産地のアラビカ種でもいくつかの品種がありますし、収穫後の精製方法や、その後の焙煎度によって味わいは随分と変わります。

同じ産地の複数種類の豆を揃えるお店は、例えば名古屋ならGLITCH COFFEEさんやTRUNK COFFEEさんがそうですが、一つの国の豆だけを揃えたお店は、かなり珍しいです。

相談にのってもらいながら、軽めの食感のチーズケーキに合わせて選んだのは浅煎りのピンクブルボン ナチュラルです。コロンビアはその地形から気候も変化に富み、多彩な品種が栽培されるとのこと。ブルボンもそんな品種のひとつです。

CAFETALESでコロンビアのコーヒーをハンドドリップ
後でこの写真を見返して気付いたのですが、コーヒーサーバーは我が家で使っているものと同じKINTO製です。以前掲載した「おうち“MUJI”カフェ:ダーク&スイーツ編」で使用した器具の中で唯一MUJI製ではなかったのがこのサーバーでした。

1杯分の豆を挽くと、フローラルな香りが漂ってきました。お湯を注ぐと、さらに香りが立ちます。

ピンクブルボン ナチュラルとバスクチーズケーキ

さて、ナチュラルのピンクブルボン、そのお味は。

最初の一口目のフローラル感は衝撃的でした。まるで、花びらで淹れたコーヒーのよう。その衝撃も長くは続かないのですが、二口目以降もフルーティーな味わいとフローラルな香りは続きました。

CAFETALESのバスクチーズケーキと、ピンクブルボン ナチュラル
添えられたテイスティングカードからは味の特徴だけではなく、トレーサビリティも分かるようになっています。写っているのは、生産者の顔。

バスクチーズケーキはふんわり軽い口溶けだけど、味わいは思いの外に濃厚。甘さは程良く控えめです。チーズケーキの後味が残るうちにピンクブルボンを口に含んで起こる味変は、爽やかなレモンのようなフルーティーさ。いいですね、この相性。

CAFETALESのバスクチーズケーキ
実はこれ、この日2つ目のチーズケーキ(一つ目は先に紹介したHue Coffee Roasterさん)。チーズケーキってお店によって個性が違うから、飽きないですよね。(同意してくれますか?)

先ほどトレーサビリティについて触れましたが、この文字通りの意味は「追跡可能性」で、ここではコーヒー生産過程の履歴を意味します。尚、トレーサビリティがはっきりしていることはスペシャルティコーヒーの特徴のひとつでもあります。

CAFETALESの「COFFEE STORY」
壁に掲げられた「COFFEE STORY @ CAFETALES」は、このお店で扱うコーヒー豆のトレーサビリティを語るものでもあります。

次章ではこの起点となるコーヒー生産者について考えてみます。

基本情報

大阪府大阪市中央区久太郎町2-5-19 丸忠第三ビル 1階

8:00~18:00
最新情報はお店のウェブサイトでご確認ください

CAFETALES

生産国と生産者

以前「第13回 世界フェアトレード・デー・なごや」のコーヒーサミットに行った時に、参加された方々が異口同音に語ってくれたのはコーヒー生産者を守るということです。

実は参加者の中でフェアトレード認証の豆を扱うお店は多くなかったのですが、トレーサビリティはスペシャルティコーヒーの特徴のひとつであることを考慮すれば、スペシャルティコーヒーを扱うことには生産者に目を向けることへの含蓄があります。

ここでCAFETALESのマスターさんから伺ったコロンビアとの関わりを紹介しますが、まずはそのコロンビアについて少し調べてみました。

コロンビアについて

コロンビアと聞いてコロムビア・レコードを思い起こすのは年配の方ですかね。実際のコロンビアは南米大陸の北に位置し、コーヒー大国のブラジルと国境を接しています。一方で情勢不安が度々伝えられるベネズエラとも国境を接しています。

アンデスメロンの産地と誤解されがちなアンデス山脈もコロンビアを貫き、その地形の多様さから気候の変化にも富み、先述のように多彩なコーヒーの品種が栽培されるとのことです。生産される主な品種はブルボン、ティピカ、カツーラ、マラゴジーペなど… って、幅広いですねっ!
(トリビアですが、アンデスメロンの由来は「アンですデス」です。)

前述のGLITCH COFFEEさんを初めて訪れた時にいただいた「2種飲み比べ」のうち1種は「コロンビア」でしたが、その時のテイスティングカードを見ると、それはレッドブルボンという亜種(Variety)でした。品種や亜種については以前チムニー珈琲焙煎所さんを紹介した時に少し説明していますので、気になる方は見てみてください。

産地の標高は1,850~2,100mとあります。奥多摩にある東京都の最高峰、雲取山の標高が2,017mと言って、ピンときますかね。私は高校生の時に何度か登ったことがありますが、そこそこしんどかったですよ。

GLITCH COFFEE @9hで2種類のスペシャルティコーヒーを飲み比べ
GLITCH COFFEEさんでいただいた2種飲み比べ。手前はエチオピアで、奥がコロンビア レッドブルボン。

今回CAFETALESさんでいただいたピンクブルボンはどうでしょう。いい機会ですので、トレーサビリティとCoffee Storyについて少し考えてみます。

トレーサビリティとCoffee Story

先述のように、CAFETALESさんで出されるコーヒーに添えられたテイスティングカードからは味の特徴だけではなく、トレーサビリティも分かるようになっています。

そのテイスティングカードを見ると、産地はHulia県 Pitalito市 Filo Chillurco村とまで細かく記載されていて、その標高は1,780m。さらに生産者のコーヒー栽培に対する想いまで記載されています。

ここまでトレーサビリティがしっかりしているお店は、なかなかありません。しかも街カフェですよ!

他にも例を挙げますと、随分前に「Japan Coffee Festival 2019 in 神戸 (1)」で紹介したHEART FULL COFFEEさんは「ルワンダのJacquelineママ」が栽培したコーヒーを扱っていましたし、昭和区民祭でお会いした桜花学園の生徒さんはウガンダの生産者から送られた、生産者の皆さんの写真を飾っていました。ここまでトレーサビリティがしっかりしていると、安心です。

昭和区民まつりに出店した桜花学園国際キャリアコースのブースに掲示された本と写真
名古屋の桜花学園国際キャリアコースの生徒さんは地元の業者が輸入したフェアトレード認証のコーヒー豆を自分たちで選び、産地のことも勉強しています。

ここで改めてCAFETALESさんの壁に飾られていた「COFFEE STORY @ CAFETALES」を見てみましょう。8つの過程は以下の通りです。

  1. Growing: 栽培
  2. Harvesting: 収穫
  3. Processing: 精製
  4. Shipping: 輸送
  5. Roasting: 焙煎
  6. Grinding: 挽く
  7. Brewing: 淹れる
  8. To cup: カップへ

コーヒー農家が行うのは一般的に栽培から精製までです。上述のGLITCH COFFEEさんのレッドブルボンの精製方法は「Cherry Madness」でした。今回いただいたピンクブルボン ナチュラルは、その名からナチュラル製法であると察しますが、詳しくは「72h Anaerobic Natural」だと分かります。

GLITCH COFFEEさんを紹介した時にコーヒー豆の精製方法についても少し触れましたので、興味がある方は見てみてください。

精製されて「生豆」となったコーヒー豆は様々な方法で消費地に運ばれて、焙煎所や、自家焙煎のカフェであればお店で焙煎されます。コーヒー専門店であれば注文を聞いてから1杯分の豆を挽き、そのお店の方法で淹れられ、1杯のコーヒーになる。これがCoffee Storyです。

ガラス越しに見たWORKBENCH COFFEE ROASTERSの焙煎器
こちらは豊田の自家焙煎カフェ、WORKBENCH COFFEE ROASTERSさんの焙煎機。

さて、コロンビアのコーヒーを専門に扱うCAFETARESさん。その縁も聞いてきました。

CAFETALESとコロンビア

前述のようにCAFETALESさんのテイスティングカードには生産者の顔写真からコーヒー栽培に対する想いまで記載されていますが、その情報の一部は注文する前にも見ることができます。壁に掲げられたパネルからは、その農園の様子も伺えます。

コーヒー生産者とその農園から、収穫された完熟コーヒーチェリーまで。なぜこんな写真まであるか? マスターはコロンビアのコーヒー農家を実際に訪ねています! 街カフェのマスターでそこまでする方は、なかなかいないですよね。

CAFETALESの店内に掲げられたパネル
今回いただいたピンクブルボンと、リオ ブランコの情報。左側の棚に置かれた個性的なドリッパーも気になりますが、これは後述します。

コーヒーチェリーの熟し具合にはムラがあるそうですが、これを機械で一気に収穫すると未熟豆も一緒に摘み取ってしまいます。効率はいいかもしれませんが、無駄もありますよね。手間が掛かっても手摘みなら無駄がありません。結構な標高で、ですよ。

マスターはそんな収穫の様子まで現地に見に行くそうです。先ほどのCOFFEE STORYでは「様々な方法で消費地に運ばれて」とサラッと書きましたが、コンテナに入れて船で運ばれる生豆が低温で保たれるようにするなど、輸送にも気を使っているそうです。

そんなマスターがコロンビアを選んだ理由の一つは、コロンビア産の豆だけでも色んな風味があるから。これは前述の通りですね。もう一つの理由は、コロンビア人の友達がいたからとのことです。

CAFETALESに置かれているコーヒードリッパー
上の写真に写っていたドリッパーはコロンビアから送られたもの。CAFE 18は「カフェ ディエシオチョ」と読むとのこと。エスパニョールですね。マスター、わざわざ写真撮影のために持っていただいて、ありがとうございます!

カウンターの向こうにある棚に並べられた何種類ものドリッパーを見ると、東三国の珈琲焙煎研究所を思い出します。でもよく見ると、その上に並んだカップには「CAFE DE COLOMBIA」の文字が。これはCAFETALESの開店にあたり、コロンビアの友人が送ってくれたそうです。温かいですね。

CAFETALESの棚に並べられたコーヒードリッパーとコーヒーカップ
ORIGAMI、HARIO V60、カリタウェーブと、3つ穴、エイプリル、HARIOスイッチ… お店のスタッフが持ってきて、いつの間にか増えていたそうです。

そんなCAFETALESさん、実は私が心斎橋まで向かう際、たまたまGoogleマップで見つけただけなんです。これも何かの縁ですね。

縁と言えばCAFETALESさんは、私が大阪に住んでいた時に何度か行ったJapan Coffee Festivalに参加されていて、共通のお知り合いもいました。残念なのは、CAFETALESさんが開業したのは私が大阪から名古屋に移った5年前。大阪に住んでいたら、通っていましたよ。

CAFETALESの入口
入り口にはお店で売っているドリップバッグやオリジナルマグが置かれていて、よく見るとその下で育っている鉢植えはコーヒーノキです。

さすがに名古屋からは通えませんが、こんなお店のマスターと知り合えたのは光栄です。大阪に来る機会があれば、また来ます!

参考文献

コーヒーの淹れ方だけじゃない。スペシャルティコーヒーのことや、コーヒー産地としてのコロンビアのことなど、色々学ばせていただきました

極める 愉しむ 珈琲事典

THE COMPLETE GUIDE TO COFFEE

編者

西東社編集部

発行者

若松和紀

発行所

株式会社西東社

発行日

2017年12月7日

定価

1,650円 (税込み、2023年3月時点)

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